日本人は古来より季節の移り変わりに対して敏感であり、季節から何かを感じたり連想したりする優れた感性を持つと言われます。長い生活文化の中で人々は暦の二十四節季や雨・雲に付けられた様々な名称で、微妙に分別を表現する素晴らしい知恵を身に付けてきました。旬の食材をその季節に食べ、味覚を目や舌で味わい、季節に想いを馳せて来たのです。
近年の経営理論に「両利きの経営」があります。経営資源は得意分野の深化に注力すると同時に、次世代分野の探索にも力を注がなければ、持続的な成長を見込めないとするものです。個人の生産活動も同様で、深化のための集中力が必要なフェイズと、様々な刺激を探索していくフェイズの両立が必要です。深化フェイズには気温も光量も調整された環境が有効かもしれませんが、探索フェイズでは季節の変化を含めた多彩な刺激が効力を発揮するのではないでしょうか。
探索のための刺激と同時に、人間の想念の膨張・暴走を抑え、自分の中の自然性を自覚する機会として季節感は有効です。本当は季節との関わりも単に鑑賞としてだけでなく、積極的にコミットできる「菜園」などの仕組みは非常に魅力的だと考えます。
人はどのような状況にも馴れてしまう動物です。新年の抱負や願掛けも3ヶ月もすれば忘れてしまう始末です。一年を二十四節季に区分して愛でる風習を活用すれば、ほぼ2週間に一度仕切り直しが可能になります。春一番の魁となる「立春」、雪から雨に変わり春を感じ始める「雨水」、冬眠していた虫や木の芽が目覚める「啓蟄」、昼と夜の長さが同じになる「春分」など、これまで歳時記は主に商業施設の販促キャンペーンとして活用されて来ましたが、オフィスなどの創造の場でリズムを生み出すために積極的に入れ込む事が有効だと考えます。サウナがもたらす効用に「整う」という言葉がありますし、断食状態では五感の感受性が鋭くなると言います。都会生活の中で不感症状態になっている感性を積極的に覚醒する仕組みが必要なのです。
【季節による変化拡張:歳時記の活用による五感の覚醒】
Commentaires